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まずはじめに、ネパールの子どもたちの教育事情を知ってください

ネパールは世界で最も貧しい国のひとつです。世界一高い山、エベレスト(ネパール名・サガルマータ)がある国として有名ですが、
その起伏のある地形のため移動は困難で、インフラの開発もなかなか進みません。
また工業は盛んでなく、農業で暮らしている人が人口の7割以上です。
1996年から10年間続いた内戦や人口増加などのために、村を離れて町や外国に出稼ぎに出る人も増えています。
国民の多くは貧しいために、十分な教育や医療を受けられません。小学校は義務教育ではありませんが、授業料は無料です。
ただ、試験代や制服代、テキスト代、登録料などのお金が必要で、それが払えない家庭も多いのです。
またせっかく小学校に入学しても、家の農業の手伝いで忙しかったり、「学校へ行っても、どうせいい仕事はないから」
「女の子はいずれ嫁いで他人の家の人間になるから」といった親の意識があるために、小学校を中退してしまう子どもたちがたくさんいるのです…。

文:山本 愛(with…基金事務局)

05チャンピ村の様子1.jpgチャンピ村 ネパールの首都、カトマンズから山道を車で50分ほどのところにあるチャンピ村。田んぼや畑に囲まれたのどかな農村に、アヌちゃん(10歳)は住んでいます。地元の公立小学校に通う女の子で、4人姉妹の末っ子です。両親とおばあさんを含めて7人家族。これからアヌちゃんの1日を追いながら、ネパールの子どもたちの暮らしを紹介しましょう。

01.あぬちゃん.jpgアヌちゃん02おばあさん.jpgおばあちゃん アヌちゃんの家では、お父さんがカトマンズの靴屋で働いて生計をたてています。家から仕事場まではバスを乗りついで2時間近くかかります。仕事が遅くなったり、雨が降ったり、バスが遅れたときは仕事場に寝泊りすることもしばしばです。おばあちゃんとお母さんは学校で勉強したことがありません。ネパールは男の子の方が大事にされるヒンズー教の影響で、女の子は小さいころから学校に行けず、家で働かされることがよくあります。そのためネパールの女性の3人に2人は、文字が分かりません。読み書きできるネパールの女性は、35%しかいないのです。幸いアヌちゃんの両親は、「女性にも教育が必要だ」と考えているので、アヌちゃんは元気に学校に通っています。お母さんの体調があまりよくないので、家事はみんなで分担しています。けさの当番はアヌちゃんです。
07水汲み.jpg午前5時の水汲み この日、アヌちゃんの一日は水汲みから始まりました。まだ日が昇らない午前5時に起きて、暗い道を歩いて井戸に水を汲みに行きます。あたりは真っ暗ですが、隣近所の人たちももう起きているようで、「早く起きなさい!」「寒いね!」とにぎやかに会話する声が聞こえてきます。井戸は地域の人たちと共有で、みんな並んで順番に水を汲んでいきます。
 家に帰ると次は部屋の掃除です。掃き掃除をした後、牛糞と赤土をまぜた殺菌作用のある水を台所と家の玄関に丹念に塗ります。腰を曲げたままの作業はなかなかの重労働。ネパールの女性たちはこのような姿勢で家事をすることが多いので、腰を帯で巻いて痛めないようにしています。掃除が終わったら、まき割りです。お茶をわかして朝ごはんをつくるためです。この薪も、アヌちゃんが放課後に近くの山から集めてきたものです。山が多いネパールでは、薪集めも時間がかかり一苦労です。これも女性や子どもたちの仕事とみなされています。手際よくナタでパキパキと薪を割ったあと、ようやく朝食の準備にとりかかります。ストーブに火をつけて、一品一品調理します。ネパールでは1日2食、朝と夜にご飯を食べるのです。お肉は値段が高いので、食べるのはお客さんが来た時など、月に1,2回です。

08そうじ(かまどの塗り掃除).jpg09まきわり.jpg11かまどに火をつける.jpg13朝食の準備.jpg
(左から、かまどの塗り、薪割り、かまどに火、朝食準備)

 今日はテストの日。調理している間に、ひまを見つけて勉強をします。教科書はお金を出して買わなければならないので、アヌちゃんはお姉さんのお下がりを使っています。ごはんが焦げないように気にしながら、台所で勉強です。ご飯、野菜煮込み、つけ合せの3品が完成したのは朝8時半。お姉さんたちと一緒にご飯を食べて、身支度をすませます。そして、アヌちゃんを迎えにきた友だちと一緒に宿題をします。学校は10時に始まるので、9時半におばあさんに見送られて登校します。学校は2時まで。帰ってきたら、近所のお友だちと遊びます。「家の仕事は慣れているから平気だよ。学校は楽しい!お友だちもいるし、色んなことが勉強できるの。テストは大変だけど」とアヌちゃんはうれしそうに言っています。

16朝食の準備4勉強しながら.jpg準備朝食をしながら勉強 アヌちゃんたちは、ネパールの社会で最も身分が低く、けがれた人々と見なされています。18世紀にネパールが建国された時に国王などの支配層が、国民を職業などによって分け隔てする差別的な身分制度を作りました。それが「カースト制度」です。この制度はのちに廃止されましたが、まだ人びとの中には差別意識が根強く残っています。

 お父さんは靴づくりの職人ですが、それは昔から差別を受ける人たちの仕事とみなされてきました。彼らは日々さまざまな差別を受け、教育や政治参加などの機会を奪われてきました。昔は土地などの財産を持つことも禁じられていました。アヌちゃんの両親の世代では、学校でも教室に入れてもらえなかったり、水飲み場も別々にされたり、飲食店に入れてもらえなかったりというひどい差別がありました。目に見える差別は少しずつ減ってきているものの、今でも貧しい暮らしを送っている人が大半です。アヌちゃんたちはカトマンズに近い村に住んでいるので、まだ仕事や勉強の機会には恵まれている方ですが、被差別の人びとの殆どはもっと遠い村に住んでいるので、その暮らしや差別はもっと厳しいものです。

21友達と一緒に勉強.jpg アヌちゃんのお姉さんのうち1人は、被差別の人たちが立ち上げたNGOで活動しています。被差別の人たちの女性は、外では自分たちより高いカーストの人びとから差別され、家の中では男性である夫の暴力に苦しめられるなど、二重の差別に苦しんでいます。アヌちゃんのお姉さんは、このような女性たちの権利を守り、生活を向上させるためのさまざまな活動をしています。貧しさゆえに女性たちは外でも働き、また家の中では家事一切を担っているので、労働過多の状態で健康を害する人たちが大勢います。また、貧しさと忙しさゆえに文字を学ぶこともできず、必要な情報を得ることもできずにいます。そのような女性たちのために、読み書きを学ぶ教室を開いたり、グループをつくって少しずつ貯金したり、家族にはたらきかけて女性たちへの理解をうながしたりしています。

 アヌちゃんはお姉さんが活動する姿を見て、「いつか自分も女性たちのために何か活動したいなあ」と話しています。
「勉強は続けたいです。できれば大学にも行って、お姉さんのように社会の役に立つ人になりたい」。

19アヌちゃん(左)と友人.jpg
アヌちゃん(左)と友人

 アヌちゃんは幸い、貧しいながらも学校に通えています。また、カトマンズなどの都会では差別も徐々に減りつつあります。しかし、カーストや貧富の差、住む場所などによって、差別を受けたり、教育の機会を得られなかったりする子どもが、ネパールには、まだ大勢います。
 そんな子どもたちが、尊厳と希望、夢を持って生きていける社会を作りたい。『with…』基金はその使命をもって、アジアや世界の子どもたちを応援していきます。